2023.3.12
安井算哲(渋川春海)は江戸時代元禄期の人だ。其の感動的な一生は岡田准一主演の「天地明察」に描かれている。この映画では算哲と江戸期の有名な数学者関孝和、大老保科正之(二代将軍秀忠の異母弟)、徳川光圀(水戸黄門)などとの温かい交流が描かれている。特に関孝和との算額(神社等に掲げる数学の掲示板)を通しての交流は私の好きな場面だ。算哲は寛永16年〈1639年12月27日〉幕府碁方の一世安井算哲(父と同名)の長子として京都に生まれた。まだコペルニクスの地動説が知られていなかった時代の日本に、天体の運行を観察し日本独自の正しい暦を作り出そうと試みた人だ。当時使われていた唐からもたらされた宣明暦は実際の暦と大きな差異が生じていた。そこで算哲は元の授時暦の方がより正確なのではないかと考えた。しかし実際には授時暦でさえ中国と日本の時差があるので完全ではない。そこで再度正確に天体を測定し、大和暦を提唱した、これが3度目の上表によって大和暦は朝廷により採用されて貞享歴となった。国産初の暦であった。当時は地動説は正式には日本に伝わっていなかったはずだから、彼が中国と日本の時差を知っていたということは地動説は彼の中では当然の疑いようのない真実だったのだろう。八代将軍吉宗の時世に西洋科学書の禁止が解かれる前に、西洋科学伝来の先鞭をつけた算哲は偉大な天文学者で有ることを忘れてはいけないだろう。
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