東大叡智会

歴史の断片 「海行かば」作曲家 信時潔

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2023.4.15

信時潔(のぶとき きよし、1887年- 1965年)は戦前の戦争鎮魂歌「海ゆかば」の作曲家として名高い。と言うより「名高かった」と言うべきだろうか。「海ゆかば」は作詞大伴家持(万葉集編者にして古代の大歌人)詩は家持の長歌から取られている。作曲が信時潔だ。この歌は、NHKの嘱託を受けて信時 潔が1937年(昭和12年)に作曲した有名な鎮魂歌だ。作曲された当時はそれほど注目を浴びなかった。メロディは賛美歌が基底にある。信時の父は牧師であったから幼児から賛美歌に親しんだに違いない。当初この歌は軍人には必ずしも好評ではなかったと聞く。普通に聞けば勝ち戦の気分にはなれない曲なのだ。このことで戦局が悪くなるにつれ、ますます演奏されることが多くなり、終戦前には「第二国歌」の如き様相となった。この事で戦後、信時は戦争に協力し、軍部におもねったとして強い批判の対象となったのだ。同世代の作曲家である山田耕筰とは作風、経歴、戦後の処し方で好対照をなしている。筆者自身この家持の詩に戦後の民主主義から見れば問題がないとはいえない事は十分理解出来る。軍国主義的歌詞と言えなくもない。山田耕筰は軍部におもねったことを何とも思わないタイプの人間だった。信時はこの批判に耐えかねて半ば筆を折ってしまった。音楽史的には、悲しいことだ。筆者自身は信時潔の方が断然好きだ。その人としての真実味を尊敬する。今後も「海ゆかば」は好き嫌い価値判断の分かれる曲であり続けるだろう。信時潔には他に有名な曲がもう一つある。「慶應義塾塾歌だ」あの有名なよく知られた校歌はやはり信時調だ。他の誰でもない彼のものだ。2015年11月28日、東京芸術大学で没後50年記念の演奏会が開かれた。信時潔が忘れられるのは残念だ。

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