偉大な純粋科学者フェルミの亡命が現代科学を作った

2023.7.18

1938年12月、スウェーデンでのノーベル賞授賞式に出席した後、フェルミ一家はそのままアメリカへ亡命した。母国イタリアがムッソリーニ政権のため、ユダヤ人の妻への迫害を恐れたからだった。そして渡米直後の彼が耳にしたのは、ナチス政権下のドイツで、オットー、ハーンがウランと中性子線による「核分裂」に成功したニュースだった。ここから核兵器開発迄はそう遠くない。もしナチス政権が核兵器開発に成功したならば、躊躇なく兵器として使うだろうから、米国には焦りが生じた。勿論戦争前後で２０００人規模でドイツの科学者たちは米国に亡命したので、科学におけるドイツの優越はゆらぎ始めていた。ナチス政権が成立するまではドイツは世界最良の科学立国だった。多くのドイツ語圏の科学者がノーベル賞を受賞した。（第二次大戦前のドイツ語圏は今よりずっと広かった）しかし良心の自由、精神の自由がない所に、学問は栄えない。ナチスはその蛮行により、ドイツの輝かしい科学の伝統を台無しにして破壊してしまった。フェルミはアメリカでは核分裂反応の研究に従事し、1942年、シカゴ大学で世界最初の原子炉を完成させ、原子核分裂の連鎖反応の制御に史上初めて成功した。この原子炉は原爆の材料となるプルトニウムを生産するために用いられた。アメリカ合衆国の原子爆弾開発プロジェクトであるマンハッタン計画でも中心的な役割を演じた。まさに米国原爆の父と言えよう。実験物理と理論物理の双方において世界最高レベルに達した稀有な科学者である。勿論原爆製造に直接関わったことは彼の精神的な負の遺産となった。原子番号100の元素は1955年にフェルミウムFermium)と命名され彼の名前に因んでいる。１のマイナス15乗は1フェルミという単位である。私の好きなフェルミのエピソードを紹介しよう。フェルミは病床でもストップウォッチを手に点滴が落ちる間隔を測り、流速を計算していたそうだ。テーマを身近に見つけて実験し確認し抽象化するそしてそれは私達凡人に知の新しいフロンイアを見せてくれる、これこそ真の純粋科学者である。