2024.1.24
夏の風物詩「栄冠は君に輝く」は全国高等学校野球選手権大会の有名な大会歌だ。作詞は加賀大介。大介は草野球に熱中し、はだしで運動場を走り回る活発な少年だった。だが不幸なことに16歳のとき、野球の試合のケガがもとで右足を切断する事となった。野球は早慶戦を欠かさずラジオで聞いていて、手術のときもラジオを入れて欲しいと言ったと伝えられている。だが弱冠16歳にして夢を奪われた。この怪我で彼の選手人生は幕を閉じたのだ。脚を切断した人は脚がある感覚に悩まされると聞く。この歌は彼の野球に対する愛惜の為す詞だ。この事が私達に感動を呼ぶのかもしれない。
加賀の娘さんの淑恵さんは小学校教師として生きた。「歌は父のメッセージであり、生前のポリシーだと思うんです。母はよく言いますが、勝者ではなく、スポーツの勝ち負けでもなく、父の人生を振り返っても、自分の夢や努力しても叶わなかった人に対してのエールです。正面から『頑張れ』ではなく、その人の肩を押してくれる歌です」と言う。透明感や躍動感あふれる詞は大介がいまも発する熱である。72年前に生まれた歌は、コロナ禍で晴れ舞台が消えた高校球児を励ましているようにも聞こえた。加賀の死後一年にして同じ町に元巨人の松井秀喜が生まれた。淑恵さんは松井の母校の校長を勤めれた人だ。地元では松井は加賀大介の生まれ変わりと言われているらしい。
◆栄冠は君に輝く 1948年(昭23)7月に発表された全国高校野球選手権大会の大会歌。朝日新聞社が同年、学制改革で旧制中学から新制高校に切り替わったのを契機に歌詞を一般公募。5252編から加賀大介氏の作詞が入選し、作曲家の古関裕而氏が作曲した。当初は加賀大介夫人の道子さんが作詞とされたが、68年2月に大介氏の作詞を告白した。道子さんは「賞金目当てと思われるのが嫌だったようです」と明かしている。
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