2024.6.24
「ペコロスの母に会いに行く」は哀愁と情感あふれる漫画である。全ての世代にお勧めしたい作品だ。老いた母と年を重ねた息子の話だ。ホームで暮らす母には認知症の兆候があり、その症状は次第に進んでいく。しばしば息子が誰だか認知できないほどに老いは容赦なく進む。しかし老いは母だけでなく、同時に漫画を描いた主人公も徐々に老いていくのだ。老いは双方に現れる。いやどんなに成功した人もこの老いと病苦から逃れる事は出来ないのだ。本の中で漫画と文章は巧みな配置で感動を盛り上げる。人は誰しも老いるという当たり前のことをあらためて解らせてくれる。この漫画を読んでいる筆者は日々老いていき、教えている子どもたちはこれから青春の真っ只中に入っていく。加齢は悲しいことだが、それだけでもない。悲しいだけでもないという気にさせる漫画である。この本は介護の困難さも提起しているが、同時にそれを単なる暗い話にしないユーモア、ペーソスが豊富にある。この世は辛いことが沢山あるが、苦しい中にも楽しいこともあるよという、当たり前だが、忘れてはいけない常識を思い起こさせてくれる。子供から老人までお勧めできる本である。
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