東大叡智会

トランプ政権に聞かせたい岩井克人教授の納得いく説明

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2025.5.8

 岩井克人東大名誉教授は東京大学経済学部を卒業後、MIT(マサチューセッツ工科大学)で経済学の博士号を得て、国際的に活躍されている経済学者であり、またその文明批評的文章は折々、入試問題にも採用されているので受験生やその保護者の中には、その名前をご存じの方もいるであろう。

米国トランプ政権の迷走は留まることがない。関税率は二転三転し、まさに朝令暮改の極みである。今や国際経済の動きは、社会主義国の中国が自由貿易を唱え、本来資本主義国の米国が極端な保護貿易に走るという笑えないコメデイの如くとなっている。

しかし米国トランプ政権が極端な保護主義に走るのには、この方法が米国を経済的に高め、米国の権威を世界に示すという信念があるのに相違ない。ではその考えは正しいのか、はたまた間違っている単なる思い込みなのかは経済の専門家で無い限り分かりづらい。こんな事を考えている時に、雑誌「中央公論」2025年5月号に掲載された記事は誠に論理明快である。概要を以下にまとめてみたい。

トランプ政権の対外政策の基本は、「アメリカ第一主義」である。第2次大戦後、貿易、金融、外交、安全保障などあらゆる国際関係において、アメリカは「覇権国」「超大国」であることによって、自由民主主義陣営全体の利益を考慮する政策を行ってきた。だが、それは産業の空洞化、ドルの過剰供給、過大な対外援助、過剰な軍事費など、多大な犠牲を伴い、アメリカの国力を消耗させてしまった。だからいま、アメリカは「覇権国」であることを放棄し、自国の利益を追求していくという立場の表明である。

これは大いなる誤謬であると教授は説く。なぜならば、アメリカは「覇権」国ではなく、「基軸」国であるからだ。「覇権」国とは、自らの経済力や軍事力によって、多くの国を直接支配していく国のことである。かつてのローマ帝国や大英帝国は、まさにその意味での覇権国と言うことが出来た。

では、アメリカが「基軸」国であるとは、どういう意味だろうか?それは国際関係において、アメリカがネットワークのハブとなっていることである。すなわち、自分以外の国同士を、自分を「媒介」として結びつける役割を果たしているのだ。

たとえばドルは、世界の基軸貨幣だ。ただそれは、世界中の人がアメリカと取引するためにドルを大量に保有しているという意味ではない。ドルが基軸貨幣であるとは、日本と韓国の貿易やドイツとブラジルとの資本取引が、円でもウォンでもユーロでもレアルでもなく、ドルで決済されることなのである。アメリカの貨幣であるドルが、アメリカ以外の国同士の取引において貨幣として使われる事を示している。米国が発行するドルの6割は米国以外で流通している。まさにドルを通して米国は世界経済を左右している、また米国FRBはドルの発行量を通して世界経済を間接的に動かす事が出来る。貿易が盛んになり、ドルが使われるほど米国の間接的ではあるが、利益は高まるわけだ。

まさにドルは英語の如き働きをしていると言うわけだ。日本人と東南アジアの人々がそのお互いの言語を通してではなく、英語を通してビジネス、教育、旅行等をすることで常に英語国である米国の存在と影響力は大きくなる。

教授は基軸国である米国の存在はドルと英語を通して、実態以上に大きくなっていると説いている。既に十分な力をそこから得ているわけだ。中国人でさえ、貿易取引にはドル払いを好むのだ。何故なら米国ドルは安定した通貨だからである。このことが米国に対する信頼を生んでいるのは間違いない。ある意味米国は既に「偉大」である。諺にもあるではないか。「金持ち喧嘩せず」という言葉はトランプ政権には理解不能の言葉なのであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英語も同じです。英語が基軸言語であるとは、日本人と韓国人、ドイツ人とブラジル人の間の対話が英語で行われているということです。さらに、アメリカは文化や政治や軍事にいたるまで世界の基軸国としての役割を果たしているのです。

 

 もちろん、アメリカが基軸国となるきっかけは、第2次大戦直後のアメリカが圧倒的な支配力を持っていたことによります。当時アメリカは世界の工業製品の半分以上を生産しており、どの国もアメリカと取引するためにドルを欲しがっていました。しかし、じきにアメリカの地位は相対的に落ちはじめ、現在ではアメリカの工業生産が世界のなかで占める割合は2割にすぎません。それでも、世界中の貿易や金融取引の6割はいまだにドルで決済されています。

 

 したがって、いま世界中の人がドルを使うのは、必ずしもアメリカ人と取引したいからではない。それは世界中の人がドルを使うからなのです。そして世界中の人がドルを使うのは、やはり世界中の人がドルを使うからにすぎません。ここに働いているのは「自己循環論法」です。それによって、アメリカの貨幣であるドルが、アメリカ経済の地盤沈下にもかかわらず、世界中で基軸貨幣として流通しているのです。

 

 同様の自己循環論法は言語についても文化についても政治についても軍事についても働いています。それによって、アメリカの貨幣や言語や文化や外交力や軍事抑止力が世界中で「媒介」として使われ、アメリカはその実体的な国力をはるかに超えた影響力を世界に対して持つことができているのです。

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