東大叡智会

明治の学問事始め

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2023.8.26

NHK朝ドラでは牧野富太郎博士が日本に植物学を根づかせる苦闘が描かれている。明治初頭は日本に自然科学の研究を好む人は居ただろうが、それを教える人、機材、設備、専門書、全てが欠けていた。森鴎外は名作「妄想」の中でこう述べている。「故郷は恋しい。美しい、懐かしい夢の国として故郷は恋しい。併し自分の研究しなくてはならないことになつてゐる学術を真に研究するには、その学術の新しい田地でんぢを開墾して行くには、まだ種々いろいろの要約のけてゐる国に帰るのは残惜のこりをしい」鴎外がドイツに留学したのは1884年(明治17年)6月だから、これは其の時代の事だ。明治初期日本は自然科学や数学を根付かせる為に膨大な数の所謂「お雇い外国人」を教師として招いた。日本人には自然科学を教える人が居なかったのだ。番組では牧野博士が苦労して日本の植物図鑑を作っていく過程が描かれる。折角採取した植物も日本には鑑定できる機関も人も居なかったのだ。此の様な明治時代から150年以上が経ち日本には既に多くの自然科学のノーベル賞受賞者がいる。明治を生きた鴎外はまたこうも述べている。「日本に長くゐて日本を底から知り抜いたと云はれてゐる独逸ドイツ人某は、真の自然科学はの東洋の天地には生じて来ないと宜告した。東洋には自然科学を育てて行く雰囲気ふんゐきは無いのだと宣告した。自分は日本人を総悲観しなくてはならない程、無能な種族だとも思はないから、敢て「まだ」と云ふ。自分は日本で結んだ学術の果実を欧羅巴へ輸出する時もいつかは来るだらうと、其時から思つてゐたのである」此の様な時代が有り、幾多の諸先輩の学問との格闘努力が実りそして伝えられて、今日の日本の自然科学の隆盛がある。自然科学を目指す生徒諸君には此の昔の人の思いを忘れないで欲しい。

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