東大叡智会

睡眠の大事さを再び論じる 短時間睡眠は幻

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2024.10.22

大谷翔平、落合博満はじめスポーツ界のトップ選手には長時間睡眠論者が多い。ここでは長時間睡眠と書いたが、実は国際的には決して長時間睡眠ではない。国際比較で日本人の睡眠時間は先進国中最も短い。筆者の経験から日本人留学生は授業中の居眠りが多いのは間違いない。ここに書いたのは信頼できる睡眠専門医師三島和夫氏の研究である。

あくまでも平均であるが、20代、30代の若い世代では毎日コンスタントに8時間30分程度眠る必要があることが私たちの以前の研究で明らかになっている。実際、「譲れない眠り、「必要睡眠量」を測る」で紹介した米国ペンシルベニア大学が同じく20~30代の健康な被験者を対象にして行った研究でも、1日8時間の睡眠では不足で、実験が行われた2週間にわたって認知パフォーマンスが悪化し続け、負債が積み上がることが示されている。事実は8時間寝ても学習能力は毎日下がり続けるのだ。

先生の研究に参加した被験者たちは、実験参加前の睡眠時間が平均7時間30分であることが確認されており、事前調査では日中に眠気を感じておらず睡眠不足とは思っていないと回答していた。これは恐ろしいことだ、本人が自覚しないうちに睡眠不足になっているのだ。

この実験では9日間にわたり音や光などの邪魔の入らない特殊な実験室で毎晩十分な睡眠時間を取ってもらい、睡眠負債を完全に解消させた(回復睡眠)。すると、刺激に対する反応時間や計算能力、ワーキングメモリなどの認知パフォーマンスは向上し、ストレスホルモンは低下し、耐糖能(血糖を下げる力)は強化されていた。つまりこれが元々有している能力であり、実は自分では気付いていないだけで日々1時間の睡眠負債を溜め込んでいたのである。このような自覚できない睡眠不足を「潜在的睡眠不足」と呼んでいる(「眠くない寝不足「潜在的睡眠不足」の怖さ」

より重度の睡眠負債ではより長期間かかる。週末の寝だめによって眠気は比較的早く解消されるものの、心身の回復には全く不十分なのである。むしろ「眠気が無いから大丈夫」という思い込みが睡眠負債を溜め込む生活習慣から脱却できない一番の原因となっている。

その結果、8時間の回復睡眠グループでは日中の眠気は初日から消失したが、認知パフォーマンスは徐々にしか回復せず、5日経過しても試験開始前の水準まで回復できなかった。一方、10時間の回復睡眠グループでも眠気は早々に消失したが、認知パフォーマンスの回復は8時間睡眠に比較してより早いものの、やはり5日経過しても試験開始前の水準までは回復していなかった。

 実生活で睡眠不足に陥りがちの人は基本的に夜型が多い。夜型の人は平日に出勤や登校のために頑張って起床し、体内時計を朝型にする効果のある午前中の日照を浴びることで遅れがちな体内時計の時刻を早めに巻き戻している。ところが、週末に寝だめをすると肝心の午前中の光を浴びることができなくなってしまうのである。幾つかのシミュレート研究によれば週末2日間の寝だめで体内時計が30分~1時間近くも遅れてしまうという。これでは夜寝付くのが遅くなって、睡眠負債生活から脱却するのは難しい。  平日の睡眠不足と休日の寝だめを繰り返す睡眠習慣は社会的時差ボケ(社会的ジェットラグ)と呼ばれ、生活習慣病や抑うつ、認知パフォーマンス低下のリスクを高めることが分かっており決してお勧めできない。結局のところ、週末の寝だめを1週間に均等分散して睡眠不足も時差ボケも回避することが理に適っている。基本的に週末の寝溜めは有効でないのだ。

怖いのは本人が昼間眠くならないために、睡眠不足の自覚がないケースだ。しかしたとえ眠くならないにしても「新しいことへのチャレンジ精神」「既知のものを自分の中で再構成する積極性」は確実に損なわれているに違いない。これこそまさに受験勉強で必要とされるものであろう。

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