東大叡智会

医学部ブーム忘れてはならないこと

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2026.2.23

筆者の世代には今の様な医学部ブームは存在していなかった。ではその頃の生徒はどこに進学したのであろうか? 筆者の回りは男子生徒ならば、おおよそ殆どが工学部の電子、電気、機械、土木(今ほど不人気でなかった)建築であった。特に最初の3つは数学、物理が出来る理系秀才の典型であった。それ以外では教育を含む数学科、女子なら薬学部、稀に医学部、男子は少数の法学部や、経済。全体を45人くらいとすれば30人超が工学部、稀に理学部という具合で多少とも成績が良ければ、将来の大企業への就職を考えてまずは、手堅いエンジニアであった。特に九州地域は伝統的に理系信仰が強い。何故かと言えば、地元に大企業が無いからである。企業は技術職の首は切らないという訳だ。その後しばらくして、医学部ブームが起こった。私の知り合いには大学卒業後、医学部へ再入学編入等で医師になった人が多い。企業には入ったものの、研究職技術職であっても、組織の中で生きていくことに、息苦しさや不安を覚えた人達であった。基本的に長く働くことが出来、定年が無きが如くの仕事ではある。医師であればそれなりに独立した仕事が、たとえ組織の中でも可能だろうと考えた人達である。工学部ブームが去って今は殆どの地域で医学部進学ブームである。愚息も医学部志望だ。

さてここからが肝心の医学部進学の話である。最初に少し要点をまとめてみた。

①医学部の人気が続いている。志望者は増加傾向で、合格の難易度は高止まりしている。特に市大医学部の難化が昔と違う点である。

②受験対策は早期化しており、医学部進学に特化したコースを設けた中高一貫校が増えた。

③医師は地域や診療科による偏在が指摘されており、多様な人材を育てていくべきだ。

     ◇

 私大医学部全31校の医学科総定員は約3700人。志願者は2024、25年度と連続で延べ10万人を超えた。

大手予備校の河合塾の資料などをもとに30年前と今春の入試を比べると、医学科のボーダー偏差値(合格可能性50%)は国公立大で2・5~10・0ポイン   ト、私立大で2・5~17・5ポイントほど上昇。私立は大半が10ポイント超上がっている。いまや以前と違い私大医学部の底辺校は存在しないと言っても過言ではない。

 医学科の入学定員は医療の充実などを理由に臨時定員を設けて増えている。25年度は全国81大学(防衛医大を除く)で計9393人と過去最大規模になった。

 人口減もあって厚生労働省は29~32年ごろには医師の需給が均衡すると試算。厚労省の検討会では将来的に全体の定員を減らし、一部を医師が多い地域から少ない地域に移す案が有力になっている。後数年でこの世代が大学受験を迎える。

 定員の一部を「地域枠」に振り替える流れもある。入学者は卒業後、過疎地や従事者の少ない診療科での勤務を義務付けられる。

 医師を育てるには多額の費用がかかる。国立は一部を除き学費は6年間で計約350万円で、税金で支える。私立の学費は平均で約3300万円で、5千万円弱に達するところもある。値下げのトレンドをつくったのが順天堂大だ。08年に900万円下げて当時の私立では最も安い水準の2080万円とした。

 とはいえ、平均で3千万円もの学費は一般的な家庭にとっては出しづらい。民間の金融機関では医学部向けの教育ローンもある。多くは無担保で上限額は3千万円などに設定されている。医師になってから、本人が返済していくことを想定している。厚労省などによると、24年の医師の平均年収は1300万円強。ある銀行の担当者は「一般の給与所得者の3倍の水準で、十分返済できると見込んでいる」と話す。

 

医学部に特化した予備校も校舎を増やす。基本の授業料に夏冬の講習などを加えると、年間の学費が数百万円から1千万円を超えることも。医系専門予備校メディカルラボの可児良友・本部教務統括は「個人授業が中心で講師1人を1年間雇うようなものだから、高額になるのもご理解いただきたい」という。筆者は医学予備校で働いた期間が長い。30年程前でも年間500万円が普通の様な高い学費であった。保護者が医院病院経営者であれば、いかに高い学費であろうとも、採算は取れるのである。

 医学部人気の波は中学入試にも及ぶ。中学受験指導のサピックスの広野雅明・教育事業本部長は「私立中学の生徒募集で以前は特進コースがはやり、次いで国際やサイエンス、今は医進が注目を集めている」と指摘する。

早い段階で優秀な人材が集まるのは医療界にとって良いかもしれないが、医師の育成のあり方に懸念を持つ関係者もいる。

 経済面や暮らす場所を重視する志望者もいて、地方での勤務や、外科や産婦人科など特定の診療科が避けられる傾向がある。

 初期医療研修を終えると、高収入が期待される美容外科医にすぐになる「直美(ちょくび)」が議論を呼んでいる。医師の偏在が進めば、地方での救急医療などの担い手が足りなくなる。志望者に求められるのは、今も昔も社会貢献への強い使命感だろう。東大医学部を出て、美容整形医になる人さえいる世の中である。

 

 大学受験の偏差値表を見ると医学部が上位を占める。勉強が出来る若者がこぞって医師を目指している状況だ。

 「半導体やAIで日本が存在感を発揮できないのは、優秀な人材の医師偏重のせいかもしれない」。こう訴える予備校関係者や研究者は少なくない。成長分野に人材の「空白」があるという訳だ。 情報技術などに関心がある生徒にも、勉強ができるなら医師になるよう促すような雰囲気が教育現場や家庭にあるのかもしれない。

 愚息も親の手前、医学部進学と言ってはいるが、一番の関心はプログラミングを含む情報工学だ。

 AIといえば、医療現場でこれから活用が期待されるのが画像診断だ。X線やCT、MRIなどの検査の画像は、診断や治療方針を立てる時に欠かせない。AIによる画像診断は実用化が進んでいて、判断する水準がベテラン医師を上回るものも登場しているという。AIが普及していけば医師の役割は大きく変わる。

 医療費がふくらむなか、診療報酬をできるだけ抑制しようという動きも出ている。今は高い医師の報酬も、いずれ相対的に下がっていくという見方もある。

 今年、医学部に合格する人が初期・後期の研修を終えて一人前になるのは10年以上先だ。そのころ、医師の役割や待遇がどうなっているのかは予想しにくい。「医者になれば一生安泰」とは言い切れなくなっている現状があるのも事実だ。

 社会貢献できる仕事はたくさんある。生徒の関心や思いをもとに納得のいく進路選択ができるよう、周囲が後押しする必要がある。

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